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(2024/9/3)
人手不足により限られた人材を効果的に活用することが企業の成長にとってますます重要になっています。人事評価制度を導入することで社員のスキルや業績を公正に評価し、適切なフィードバックを行うことで社員の成長を促進し、モチベーションの向上を目的に人事評価制度の導入を検討している小規模事業者が増えてきています。
人事評価制度の導入を検討している小規模事業者はこの職業能力開発基準を参考にしてみてはいかがでしょうか?
1. 職業能力開発基準とは
厚生労働省の職業能力開発基準は職務に必要なスキルや知識を体系化したものであり、これには各スキルのレベル区分も含まれています。小規模事業者が人事評価制度を構築する際にはまずこの基準を理解し、自社の業務内容や職務に適した基準を選定することが重要です。
基準には業種や職種ごとに具体的な能力要件が示されており、さらにスキルごとに「レベル1」「レベル2」といったレベル区分(役割等級)が示されています。これにより自社のニーズに合った基準を選び、社員に求めるスキルとその達成レベルを明確にすることができます。
「スキルの見える化」についてはキャリアマップの活用をお勧めします。
キャリアマップは各職務におけるキャリアパスを示したもので、社員が将来的にどのようなスキルを習得し、どのレベルに達することでどのような役職に就くことができるかを可視化します。これにより社員のモチベーション向上にも寄与します。
参考)厚生労働省「職業能力評価基準」について
<https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/ability_skill/syokunou/index.html>
2. 職業能力基準を基にした評価項目の設定
職業能力開発基準に基づき、社員の能力を評価するための具体的な評価項目を職業能力評価シートで設定します。このシートも職種・レベル区分ごとに用意されています。
例えば、「改善活動による問題解決」「関係者との連携による業務の遂行」など各社員の職務やレベルに応じた評価項目を設け、それぞれの項目に対して具体的な達成基準を設定します。
【職業能力評価シート】
3. 評価プロセスの設計
職業能力開発基準を基にした評価項目に対してどのように評価を行うかを具体的に決定する必要があります。
評価項目に対して、自己評価、上司評価、同僚評価など評価方法を組み合わせることで、評価の客観性と信頼性を高めることができます。
また、その運用においては四半期ごとに評価を実施するか、半期に一度行うなど評価サイクルを決めましょう。
さらに評価後のフィードバックプロセスも明確にする必要があります。誰がフィードバックを行い、どのように社員に伝えるかを決めておくことで、評価結果に基づいた能力開発を効果的に行うことができます。
4. フィードバックと能力開発
評価結果を基に社員に対してフィードバックを行い、今後の能力開発の方向性を示します。職業能力開発基準に基づいたフィードバックを通じて、社員がどのスキルを向上させるべきか、どのように成長していくべきかを具体的に示すことができます。
また、キャリアマップを利用することで社員の成長目標を明確にし、スキルアップの道筋を具体的に示すことができます。さらに能力開発のための研修や教育プログラムを設け、社員のスキルアップを支援することが長期的な人材育成に繋がります。
5. 評価制度の見直しと改善
導入後も定期的に見直しを行い改善を図ることが必要です。特に、小規模事業者では経営環境や業務内容の変化に応じて評価基準や項目を柔軟に見直すことが重要です。
社員からの意見も積極的に取り入れ制度の改善に役立てることで、評価制度の信頼性と効果を高めることができます。キャリアマップを使って社員の成長や業務内容の変化を反映し、評価基準や項目を見直すことが可能です。
6. 賃金制度との連携
評価制度を賃金制度と連携させることで評価制度の重要性を社員に認識させるとともに、モチベーションの向上を図ることができます。職業能力開発基準に基づいた評価が報酬に結びつくことで、社員は自分の成長が企業の業績に貢献していることを実感しやすくなります。
ただし最初から賃金制度と連携させるのではなく、まずは評価を行うことや評価を受けることに慣れる期間を設け、その後に評価制度と賃金制度を連動させるという方法でも良いでしょう。
7.まとめ
小規模事業者が人事評価制度を構築する際には、厚生労働省の職業能力開発基準を活用することが有効です。なぜなら、職務に必要なスキルや知識が体系化され具体的な能力要件やレベル区分が示されており、これに基づいて評価項目を設定できるからです。
さらに、自己評価や上司評価を通じてスキルや能力の認識を共有し、キャリアマップを活用して社員の成長目標を明確化し、フィードバックを通じて能力開発を支援することが社員のモチベーション向上につながります。
小規模事業者は人手不足により採用が困難になっている今こそ、人材育成の観点から職業能力開発基準を活用して、人事評価制度の構築に取り組んでみてはいかがでしょうか。
(2024/7/31)
人事評価制度の必要性
5月のトピックでは人事評価制度の必要性を人的資本経営と組織論の観点から説明させて頂きました。今月は「人事評価制度で人材を育成する」というテーマでお話をしたいと思います。中小企業において人事評価制度を導入することは、単に従業員の成果を測定するだけでなく、企業全体の成長を促進するための重要なツールとなることは説明しました。
人事評価制度の主な内容として以下のようなものがあります。(1と4と5については前回のコラムで解説)
【人事評価制度の主な内容】
1. 明確な目標設定とコミュニケーションの促進
2. キャリアパスの明示
3. トレーニングと開発の機会提供
4. モチベーションの向上
5. 組織文化の強化
中小企業の永遠の課題である人材育成
「うちの会社はなかなか成長しない社員が多いよね」というぼやきの声をよく耳にします。そこで、社員の成長を促すための仕組みとして「キャリアパスの明示」と「トレーニングと開発の機会提供」を考えてみましょう。
キャリアパスの明示
キャリアパスは、最終的にどの領域でどのポジションをゴールとするかを明確にすることです。例えば、IT・ソフトウェア業に属する人材の場合、ゴールとしてITコンサルタント、プロジェクトマネージャー、ITスペシャリストなどを目指すことになるでしょう。
入社してスタッフとして開発経験を積み重ね、一人前のプログラマーとなってきます。そしてプロジェクトを牽引するマネージャーを経験してより高度場ソリューション能力を持つITコンサルタントを目指し、キャリアアップしていきます。目指すゴールに向けて、各フェーズで求められるスキルレベルを理解し、「各ステップではどのような能力・スキルが必要か?」を具体的に明確にします。これがキャリアパスです。人事制度の1つである役割等級制度を構築する際にも必要なツールです。
【例】
スタッフステージ→「今後の必要となるプログラミング言語の習得→現場で使いこなせる能力」
コンサルタントステージ→「マーケティング知識 高度なプレゼンスキル 組織統制力」
トレーニングと開発の機会提供
「各ステージではどのような能力・スキルが必要か?」を明確にしたら、スキルを身につける機会を提供することが重要です。普段のOJTに加えて、「Udemy Business」や「Schoo for Business」などのサブスク型eラーニングの導入が有効だと考えます。個々人によって必要とされるスキルや能力は異なるため、従来の会社全体の研修(階層別研修も含む)では対応が難しくなってきています。そこで、社員の自主性が求められ、自主的なスキル開発が必要です。
ただし、なんでもかんでも受講すれば良いというわけではありません。各ステージ毎に推奨カリキュラムを明示し、推奨することも重要です。この推奨カリキュラムは人事総務担当が一方的に決めるのではなく、現場の優秀な社員から意見を取り入れながら設定することが効果的です。
人材開発支援助成金(人への投資促進コース)厚生労働省HPリンク
「Udemy Business」や「Schoo for Business」等の定額受け放題研修サービス(サブスクリプション)を助成の対象としています。対象となるのは基本料金のほか、「初期設定費用」「アカウント料」「管理者ID付与料金」「修了証の発行」「IPアドレス制限機能」「データ容量追加料金」など、訓練に直接要する経費です。この費用の60%が助成される制度です。
定額受け放題研修サービスは費用がかかるため、当該助成金を活用しない手はありません。この助成金を活用することで、会社はコストを抑えながら社員のスキルアップを図ることができます。特にデジタルスキルやリーダーシップ研修などの分野もこのサービスを通じて幅広いトピックを学べるため、従業員の能力向上に大いに役立ちます。さらに、これにより社員のモチベーションも高まり、会社全体の生産性向上にもつながることが期待できます。
まとめ
今回は、人事評価制度のキャリアパスの明示、トレーニングの機会の提供、および助成金の活用についてお話させていただきました。社員が成長しないという問題は、組織全体の課題として捉える必要があります。上記の施策を通じて、社員が成長しやすい環境を整え、継続的に成長を促す文化を醸成することが重要です。このような取り組みが、最終的には企業全体のパフォーマンス向上につながります。
社員の自主性を引き出す仕組みも必要であり、それは人事評価制度で補完できるのではないでしょうか?
例えば、eラーニングの受講状況やそれを現場に実際に活かした事例を全社で共有することで、会社全体の成長に繋がるだけでなく、その事例となった社員のモチベーションも向上します。このような取り組みは、給与などの処遇よりも効果的にモチベーションを高め、社員のさらなる自己啓発を促します。
これを全社の社員を巻き込むことで、より一層の成果を生み出すことができます。全社的な取り組みを通じて、社員一人ひとりが成長を実感できる環境を作り上げ、持続的な企業の成長を目指しましょう。
(2024/6/30)
今月のトピックは、本来、人材育成の観点から「人事評価制度で人材を育成する」ことについて解説する予定でしたが、人事評価制度構築に係る助成金が復活していたことに気付いたため、人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)の解説を行います。出典:厚生労働省
助成金の概要
人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)は、中小企業が新たに人事評価制度を導入し、人事評価対象従業員(正社員・期間の定めのない非正規社員・更新の定めのある有期雇用社員)の全員合計の賃金を3%以上アップし、同時に人事評価制度導入前1年間と導入後の1年間の離職率を比較して目標値を達成すると、一律80万円が支給されるものです。
出典:厚生労働省
【主な支給要件】
(1) 助成金の指針に適合した人事評価制度・賃金制度を構築すること
(2) 人事評価を実施すること
(3) 人事評価制度に基づき評価表に則った賃金アップ(3%以上)を実現すること
助成金を検討する上での留意事項 その1 人事評価制度
【人事評価制度の主な要件】
(1)
生産性の向上や賃金アップ、離職率の低下を目的として、人事評価の対象・基準が明確である人事評価制度・賃金制度を導入すること
(2)
人事評価の対象項目が労働者個人の意思によって向上可能なものであること
イメージとして能力・技能、行動、成果・業績等を下のような人事評価表で評価する仕組み
【人事評価表】
【賃金制度の主な要件】
(1)
人事評価制度による評定と賃金の変動の幅の関係が明確であること
(2)
賃金表が定められていること
(3)
賃金の額の引き下げを行う等助成金の趣旨に反しない制度であること。新制度において平均的な評定を受けた場合の賃金額が新制度適用前と比べて3%以上増加する見込みであること
【求められる賃金表】
本助成金を受給するためには、下のような賃金表を作成する必要があります。
例えば、1等級5号俸(賃金205,440円)の人が平均的な評定(例えばABCDの評価で平均的な評価をBとする)を受けた場合、6,800円を加算した10号俸の212,240円になりますが、この昇給額6,800円が205,440円の3%以上となることが必要です。
必ず標準昇給額を確保しなければならないということはなく、C評価であれば+3号俸(4,080円)、D評価だったら0号俸(0円)という運用は可能のようです。但し、降給はできません。
なお、賃金表の作り方については、担当地区の労働局に確認をお願いします。
助成金を検討する上での留意事項 その2 賃上げ条件
人事評価制度構築後はじめて支給される毎月決まって支払われる賃金総額が、人事評価制度構築前の毎月決まって支払われる賃金総額と比較して3%以上アップしていなければなりません。前述したとおり、個人毎では毎月決まって支払われる賃金が3%以上アップしていなくても構いません。ただ、繰り返しになりますが、降給はNGです。
「マイナス評価を付けても降給することができないのか~」という声が聞こえてきそうですね。
更に、役職手当等が設けられている場合、それも含めて賃金アップしなければならないので、支給総額3%以上はハードルが結構高いと思います。
助成金を検討する上での留意事項 その3 離職率条件
下の計画時離職率算定期間(計画書の認定申請前1年間)と評価時離職率算定期間(人事評価制度導入後の1年間)を比較して、従業員300人以下であれば、離職率を現状維持することが支給要件となります。
従って、人事評価制度導入前の離職率が0%だった場合、導入後の1年間の間で1人でも離職が発生すると助成金は支給されません。
出典:厚生労働省
本助成金の活用をお勧めできる中小企業
本助成金は制度的に賃金アップと離職率の低下を目的としているため、使い勝手が悪い点も正直あります。
しかし、人事評価制度導入前の離職率が高く、離職率を下げるために従業員の賃金アップと人事評価制度の導入を検討している会社には受給できる確率が高く、お勧めです。また、人事評価制度導入前の離職率が低く、会社の雰囲気が良いために離職者が出る可能性が低く、さらに生産性の向上や社員のモチベーションアップを図るために人事評価制度を導入したいと考えている会社にも適していると思います。
但し、助成金を活用するかどうかは、自社の経営状況を鑑み、長期的な人件費支払能力も考慮して判断する必要があると考えます。
(2024/5/31)
人的資本経営とは?最近、人的資本経営という言葉をよく耳にするようになりました。人的資本経営とは社員などの人材を重要な資本と捉えて、積極的な投資対象として持続的な経営を行っていくことです。従来の人材の考え方は消費対象であり、人材に投入する費用はコストとみなされていました。
けれど、これからは人材をコストではなく重要な資本と位置づけ、投資の対象と考えることが必要です。
中小企業が人的資本経営に取り組むには何をしたらよいか?
しかし、中小企業が人的資本経営を行うには、具体的に何をすれば良いかという声が聞こえてきそうです。そこでまずお勧めしたいのが、まず人事評価制度の導入です。
なぜ人事評価制度の導入をお勧めするか、その理由を解説する前に、会社=組織を機能させるための3要素について確認しておきましょう。
組織が機能するためには、組織の3要素が満たされていることが必要
組織の3要素とは、組織が成立し機能するために必要な3つの基本要素です。
1.共通目的~組織のメンバーが共有する目標やミッションで、組織の方向性を示す
2.貢献意欲~メンバーが互いに協力し合う意志や態度で、チームワークを促進
3.コミュニケーション~情報や意見を交換するプロセスで、円滑な意思疎通を図る
この3要素が揃うことで、組織は効率的に機能し、目標達成に向けた活動が可能になります。
組織の3要素を満たすためのツールとして人事評価制度を導入する
多くの中小企業の経営者は、人事評価制度の導入目的を処遇(給与・賞与や昇格・降格)を決定するためのツールとして考えています。そのため、導入に踏み切れていないケースが多いのではないでしょうか。
しかし、人事評価制度の目的を「組織を機能させるため」に導入すると考えれば、必然性が増し、導入に拍車がかかると考えられます。
それでは、人事評価制度と組織の3要素および導入する理由と効果について解説します。
人事評価制度により共通目的を共有する
●理由
人事評価制度を通じて、社員に組織の目標やミッションを明確に伝えることができます。
評価基準や目標設定を通じて、社員が何を目指すべきかを明確にし、全員が同じ方向を向くように促します。
★効果
組織全体が一致団結して目標達成に向かうことで、効率的な運営が可能になります。
また、企業理念・ビジョンを共有できます。企業理念やビジョンは、企業の価値観や方向性、基本となる考え方を示したものです。具体的には、以下のような内容を明文化し共有できるとよいでしょう。
① 企業の社会的な存在意義
② 企業の目指すべき将来像
③ 社員の行動規範
人事評価制度により貢献意欲の向上
●理由
人事評価制度の導入により、社員の貢献意欲が向上します。なぜなら、この制度によって協力的な行動やチームワークが評価されるため、社員同士の連携や協力関係が促進されます。
★効果
チームワークが強化され、組織全体のパフォーマンスが向上します。社員は自らの貢献が評価されるという意識を持ち、より積極的に業務に取り組み、組織目標の達成に貢献することが期待できます。
これにより組織内の協力関係や連携が強化され、業務の効率性や生産性が向上し、結果として組織全体の競争力が高まります。
人事評価制度によりコミュニケーションの促進を図る
●理由
人事評価制度を通じて定期的なフィードバックや面談の機会が増え、上司と部下、同僚間のコミュニケーションが活発になります。
★効果
円滑なコミュニケーションにより誤解や情報の伝達ミスが減少し、組織の効率が向上します。
社内コミュニケーションの機会が増えると企業側には以下のような効果が期待できます。
① 情報共有の活発化で、仕事がしやすくなる
② 社内における人間関係の風通しが良くなり、社員の離職率が下がる
③ 上司と部下の間に信頼関係が結ばれ、ストレスが軽減する
④ 社員のモチベーションが向上し、生産性が上がる
まとめ
人事評価制度は、組織の三要素である「共通の目的」「貢献意欲」「コミュニケーション」を満たすための有効なツールです。この制度を導入することで、組織全体の目標達成に向けた一体感と効率的な運営が可能となり、持続的な成長を支える基盤を築くことができます。
また、人的資本経営は社員を戦略的な資産として重視しその価値を最大化することを目指すので、人事評価制度はその目的を達成するための具体的な評価・管理手段を提供します。
したがって人事評価制度が機能することで、組織全体のパフォーマンス向上や社員の成長が促進され、持続的な競争優位性が実現されます。
来月のトピックでは、人材育成の観点から「人事評価制度で人材を育成する」ことについて解説します。
(2024/4/30)
〇そもそも定額減税とは
定額減税とは、簡単に言うと、所得額を問わず納税額から一律に一定額を控除する制度です。
過去にも景気の急速な悪化等を理由に実施されたことがありますが、2024年に実施される理由も「賃金上昇が物価高に追いついていない」ことがあげられています。減税はうれしいのですが、この制度、何が大変かと言うと会社の給与計算担当者の事務が増えてしまうことです。そこで今回は給与計算担当者が何をしなければならないかということをポイントにして解説します。
〇定額減税の対象者と減税額
まず、減税対象者はどのような人で、減税額はいくらか確認しましょう!⇩
本人だけだと所得税3万円と住民税1万円の合計4万円の税額控除ですが、同一生計の配偶者や扶養親族がいればさらに1人当たり所得税3万円と住民税1万円が減税されます。
注意しなければならないのが、配偶者は本人と生計が同じで合計所得金額が48万円以下、給与収入だけの場合はその給与収入が103万円以下でないと減税対象とはなりません。また、子供の年齢は16歳未満であっても合計所得金額が48万円以下であれば減税対象になります。所得控除では対象にならない16歳未満の子供でも今回の定額減税では対象となるというところがポイントですね。具体的な事例で確認してみましょう!
社員の西川優介さんには妻と15歳の長男と12歳の長女がいます。このケースでの減税額は以下のとおりとなります。
〇給与計算担当者がやるべきこと
では、給与計算担当者がやるべきことを解説します。住民税の定額減税については、減税額を加味した令和6年7月からの天引き額を決定してくるので、それに従って処理することになります。ですので、ここでは所得税に係る事務に絞って解説します。
所得税に係る減税方法は6月1日以後に支払う給与か賞与のうち、最初に支給される時に天引きする所得税から減税額分を控除し、控除しきれない減税額があれば、それを次の給与または賞与から所得税を控除するということを繰り返します。これを「月次減税事事務」といいます。
ご注意して頂きたいのが、所得金額が1,805万円超の方は定額減税の対象にはなりませんが、この月次減税事務の対象にはなるということです。この方は確定申告で最終的な年間所得税とそれまで控除してきた税金との精算を行う事になります。
この控除しきれない税額を管理するものとして「各人別控除事績簿」が国税庁より公開されております。そちらを用いてどのように減税を行っていくか見ていきましょう!
(様式・記載例|国税庁 <nta.go.jp>)
先ほどの西川優介さんの事例では、同一生計配偶者と扶養親族の人数は3人で減税額は12万円となりますので、以下のように黄色のマスに入力します。社員全てのデータを5月中に入力しておきましょう。
6月10日に賞与が支給されその税額が7万円だった場合、この賞与に係る税金の支払は発生しません。ただ、減税額は5万円残ります。これを次回の給与等の支払時までに繰り越します。⇩
ちなみに、賞与に係る税額が12万円以上あれば、そこで減税額を使い切るため「月次減税事務」は終了です。
次に6月25日に給与が支給されその税額が3万円だった場合、この給与に係る税金の支払は発生しません。ただ、減税額が2万円残ります。これを次回の給与等の支払時までに繰り越します。⇩
そして7月25日に給与が支給されその税額が3万円だった場合、繰り越された減税額2万円を控除し1万円を所得税として納付します。これで繰り越す減税額がなくなるので、「月次減税事務」は終了です。⇩
このケースは7月で終了しましたが、「月次減税事務」は減税額の繰越がなくなるまで続きます。(最長令和6年12月まで)
〇年末調整時の減税事務
実は「月次減税事務」だけでは完結しません。「月次減税事務」は令和6年6月の現況で減税額を計算しているので、年末調整時の現況でもう一度計算し直して定額減税事務がようやく完了します。「扶養親族の増減や配偶者の所得が48万円を超えた場合等に対応するためです。
年末調整の時期になりましたら、年末調整の時の定額減税の事務処理を具体的に解説したいと思います。
(2024年1月31日)
◆「50人の壁」とは
「50人の壁」とは、社員数が50人を超えると発生する経営課題のことを指しています。マネジメントを行うために社長のほか複数の管理職が必要となり、人事制度も複雑化するので管理レベルも高まるタイミングです。また、社員数が増えることで、情報共有や意思疎通が難しくなるため、組織内のコミュニケーションの質が低下するともされています。
この50人の壁と符合するように、メンタルヘルス不調者の割合が高まってくるようです。
◆メンタルヘルス不調者がいる企業は社員数50人超で大きく増加
帝国データバンクが行った「健康経営への取り組みに対する企業の意識調査」では、過去1年間で「過重労働時間となる労働者」や「メンタルヘルスが不調となる労働者」がいるかどうかを尋ねたところ、次のような結果が出ています。
この調査の有効回答企業数は1万1,039社ですので、わが国での一般的な傾向と考えられます。
<社員数とメンタルヘルス不調者がいる割合(%)>
・5人以下 …………… 5.0%
・6人~20人 …………10.8%
・21人~ 50人 ………19.5%
・51人~ 100人 ……31.6%★
・101人~300人 ……45.5%
・301人~1,000人 …59.0%
・1,000人超 …………62.0%
(全体集計では、21.0%[5社に1社]が「いる」と回答)
このように、規模が大きな会社ほど割合が高まっており、50人を超えたところで全体での数値を超えている状況がわかります。
会社が大きく成長するほど、人事労務管理の重要性も高まってきます。
メンタルヘルス不調を防止するためには、定期健康診断の確実な実施、職場の喫煙対策、労働間管理や仕事の進め方の見直し、などによる労働密度の適正化などが重要ですので、今一度、自社の状況を見直してみましょう。
【帝国データバンク「健康経営への取り組みに対する企業の意識調査」】
〈https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p231011.pdf〉
(2023年11月30日)
厚生労働省は、労働者が社会保険料の負担による手取り収入の減少を避けるために就業調整をする、いわゆる「年収の壁」問題への当面の対策として、支援強化パッケージの詳細を発表しました。パッケージは、10月から順次実施されます。
◆106万円の壁への対応
・キャリアアップ助成金のコースの新設
短時間労働者を新たに被保険者とする際に、労働者の収入を増加させる取組みを行った事業主は、一定期間助成(労働者1人当たり最大50万円)を受けることができます。
助成対象の取組みには、賃上げや所定労働時間の延長のほか、保険料負担に伴う手取り収入の減少分に相当する手当(社会保険適用促進手当)の支給も含まれます。
・社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外
事業主は、当該労働者に対し、給与・賞与とは別に「社会保険適用促進手当」を支給できます。また、労使双方の保険料負担を軽減する観点から、社会保険適用促進手当については、労働者負担分の保険料相当額を上限として、最大2年間、標準報酬月額・標準賞与額の算定に考慮しません。
◆130万円の壁への対応
・事業主の証明による被扶養者認定の円滑化
直近の年間収入が、被扶養者の認定の要件である130万円を超える見込みとなった場合、過去の課税証明書、給与明細書、雇用契約書等に加えて、人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動である旨の事業主の証明を添付することで、直ちに被扶養者認定を取り消されることはなく、総合的に将来収入の見込み額から判断し、迅速な認定を受けることができます。
◆配偶者手当への対応
・企業の配偶者手当の見直し促進
令和6年春の賃金見直しに向けた労使の話し合いの中で、中小企業においても配偶者手当の見直しが進むよう、見直しの手順をフローチャートで示す等わかりやすい資料を作成・公表します。また、各地域で開催されるセミナーで説明、中小企業団体等を通じての周知活動を行います。
【いわゆる「年収の壁」への当面の対応について(令和5年9月27日 全世代型社会保障構築本部決定)】
〈https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001150697.pdf〉
(2023年10月31日)
◆改正の背景
「心理的負荷による精神障害の認定基準」が改正され、令和5年9月1日に通知されました。
精神障害・自殺事案については、これまで平成23年策定の「心理的負荷による精神障害の認定基準について」に基づき労災認定が行われていました。
「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」(厚生労働省)は、社会情勢の変化等に鑑み、最新の医学的知見を踏まえて検討を行い、今年7月にその報告書が取りまとめられたことを受け、今回の改正となりました。
厚生労働省では、改正後の本基準に基づき、一層迅速・適正な労災補償を行っていくこととしています。
◆改正のポイント
認定基準改正のポイントとなるのは次の3点です。
① 業務による心理的負荷評価表(※)の見直し
・具体的出来事「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスタマーハラスメント)を追加
・具体的出来事「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」を追加
・心理的負荷の強度が「強」「中」「弱」となる具体例を拡充(パワーハラスメントの6類型すべての具体例の明記等)
※:実際に発生した業務による出来事を、同表に示す「具体的出来事」に当てはめ負荷(ストレス)の強さを評価
② 精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し
・悪化前おおむね6カ月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したときには、悪化した部分について業務起因性を認める
③ 医学意見の収集方法を効率化
・専門医3名の合議により決定していた事案について、特に困難なものを除き1名の意見で決定できるよう変更
今回追加されたカスタマーハラスメントは、取引先等の第三者の行為が原因であり、企業自身に不法行為等の責任が生じるものではありませんが、従業員から相談を受ける、事案を把握した場合は、企業として問題の対応が求められるということが明確になりました。
労災事案を防ぐためにも、厚生労働省のカスタマーハラスメント企業対策マニュアル等を参考に、従業員の心理的負荷の軽減について検討していきましょう。
【厚生労働省「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました」】
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34888.html
【厚生労働省「カスタマーハラスメント企業対策マニュアル」】
(2023年9月29日)
厚生労働省より、令和4年度に長時間労働が疑われる事業場に対して労基署が実施した監督指導の結果が公表されました。この監督指導は、各種情報から時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場を対象に行われたものです。指導事例等も公表されているので、概要を紹介します。
◆監督指導結果のポイント
(1) 対象期間:令和4年4月~令和5年3月
(2) 対象事業場:33,218件
(3) 主な違反内容((2)のうち、法令違反があり是正勧告書が出された事例):
1 違法な時間外労働があった: 14,147事業場(42.6%)
うち、時間外・休日労働の実績が最も長い労働者の時間数が
月80時間を超えるもの : 5,247事業場(37.1%)
月100時間を超えるもの: 3,320事業場(23.5%)
月150時間を超えるもの: 752事業場( 5.3%)
月200時間を超えるもの: 168事業場( 1.2%)
2 賃金不払残業があった:3,006事業場(9.0%)
3 過重労働による健康障害防止措置が未実施:8,852事業場(26.6%)
(4)主な健康障害防止に関する指導の状況
1 過重労働による健康障害防止措置が不十分なため改善を指導したもの:13,296事業場(40.0%)
2 労働時間の把握が不適正なため指導したもの:6,069 事業場(18.3%)
◆指導事例のポイント
違反内容で4割超を占め、違法な時間外労働が行われていたとして、労基署が行った主な指導事例を紹介します。
◇長時間にわたる違法な時間外・休日労働を行わせたこと
・36協定で定めた上限時間を超えて時間外労働を行わせたことについて是正勧告
・労基法に定められた上限時間を超えて時間外・休日労働を行わせたことについて是正勧告
・時間外・休日労働時間を1か月当たり80時間以内とするための具体的方策を検討・実施するよう指導
◇時間外・休日労働時間が1か月当たり80時間を超えた労働者に対し、時間外・休日労働の情報を提供しなかったこと
・時間外・休日労働時間が1か月当たり80時間を超えた労働者に対し、かかる時間外・休日労働時間に関する情報を通知していなかったことについて是正勧告
◇休日労働に対する割増賃金を支払っていないこと
・休日労働について3割5分以上の割増賃金を支払っていないことについて是正勧告
◇衛生委員会における調査審議等がされていなかったこと
・衛生委員会において、長時間労働による労働者の健康障害防止を図るための対策の樹立に関することについて調査審議されていなかったことについて是正勧告
・1か月当たり80時間を超えて時間外・休日労働を行わせた労働者に対する医師による面接指導の制度を導入していなかったことについて指導
◇深夜業に従事する労働者に対する健康診断を実施していなかったこと
・深夜業に従事する労働者に対し6か月以内ごとに1回、健康診断を実施するよう是正勧告
【厚生労働省「長時間労働が疑われる事業場に対する令和4年度の監督指導結果を公表します」】
(2023年9月1日)
厚生労働省では、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害の状況について、労災請求件数や、「業務上疾病」と認定し労災保険給付を決定した支給決定件数などを、平成14年以降年1回、取りまとめています。
●過労死等(脳・心臓疾患と精神障害)に関する請求件数など
(1)請求件数は3,486件(前年度比387件の増加)。
(2)支給決定件数は904件(前年度比103件の増加)。
うち死亡・自殺(未遂を含む)件数は121件(前年度比15件の減少)。
●脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況
(1)請求件数は803件で、前年度比50件の増加。
うち死亡件数は前年度比45件増の218件。
(2)支給決定件数は194件で前年度比22件の増加。
うち死亡件数は前年度比3件減の54件。
(3)年齢別の傾向
請求件数は「50~59歳」303件、「60歳以上」283件、「40~49歳」164件の順で多い。
支給決定件数は「50~59歳」67件、「40~49歳」58件、「60歳以上」49件の順に多い。
(4)時間外労働時間別(1か月又は2~6か月における1か月平均)の傾向
支給決定件数は、「評価期間1か月」では「100時間以上~120時間未満」25件が最も多い。
また、「評価期間2~6か月における1か月平均」では「60時間以上~80時間未満」45件が
最も多い。
●精神障害に関する事案の労災補償状況
(1)請求件数は2,683件で前年度比337件の増加。
うち未遂を含む自殺の件数は前年度比12件増の183件。
(2)支給決定件数は710件で前年度比81件の増加。
うち未遂を含む自殺の件数は前年度比12件減の67件。
(3)年齢別の傾向
請求件数は「40~49歳」779件、「30~39歳」600件、「50~59歳」584件の順で多い。
支給決定件数は「40~49歳」213件、「20~29歳」183件、「30~39歳」169件の順に多い。
(4)時間外労働時間別(1か月平均)の傾向
支給決定件数は「20時間未満」が87件で最も多く、次いで「100時間以上~120時間未満」
が45件。
(5)出来事別の傾向
支給決定件数は、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」147件、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」89件、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」78件の順に多い。
精神障害の労災認定基準については、業務による心理的負荷評価表の見直し(具体的出来事にいわゆるカスタマーハラスメントが追加等)がされるなど、近く改正予定となっています。引き続き職場のハラスメント対応やメンタルヘルス対応については気をつけていきたいところです。
<令和4年度「過労死等の労災補償状況」を公表します>
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_33879.html
(2023年7月31日)
日本労働組合総連合会は、採用選考における就職差別の実態を把握するための調査を実施しました(※)。その結果、「採用試験の面接で、不適切だと思う質問や発言をされた」と回答した人が19.5%(例えば「女性だからどうせ辞める」など)、「本籍地や出生地に関すること」を質問されたと回答した人が28.3%に上るなどの実態がわかりました。
参照元:【日本労働組合総連合会「就職差別に関する調査2023」】
<https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20230531.pdf?9528>
◆採用選考の基本的な考え方
応募者の基本的人権を尊重すること、応募者の適性・能力に基づいて行うことを基本的な考え方として実施することが重要です。
◆公正な採用選考を行うために配慮すべき事項
応募者の適性と能力に関係がない事項を応募用紙等に記載させたり面接で尋ねたりすることは、就職差別につながるおそれがあります。
a.本人に責任のない事項の把握……本籍・出生地に関すること(注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当)、家族に関すること など
b.本来自由であるべき事項の把握……支持政党、人生観、尊敬する人物、購読新聞・愛読書などに関すること
c.採用選考の方法……身元調査などの実施(「現住所の略図」は生活環境などの把握や身元調査につながる可能性がある)、合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施
●人手不足に陥っていない企業はどういった施策をとっているか
総務省の統計では、2022年12月時点で、日本の15~64歳人口は前年同月比0.28%減、人数にすると20万8,000人も減っています。また、これから働く年齢になる15歳未満人口は同29万3,000人も減少しています。
総人口の推移を見ると、2019年以降加速度的に減少しており、2023年5月時点の概算では、総人口は前年同月比57万人減となっています。
◆人手が不足していない企業がしていること
新型コロナの5類移行を受け、多くの企業で人手不足感が高まるなか、不足していないという企業もあります。帝国データバンクのアンケート調査の結果によると、「人手が不足していない要因」(複数回答)として、主に次のような施策を挙げた企業が多くありました。
(1)賃金や賞与の引上げ(51.7%)
(2)働きやすい職場環境づくり(35.0%)
(3)定年延長やシニアの再雇用(31.2%)
(4)福利厚生の充実(26.6%)
(5)公平で公正な人事評価(22.0%)
(2)の「働きやすい職場環境」とは清潔保持や休憩スペース、社内相談窓口の設置などです。また、(4)と(5)は、労働者が自身の成長を感じられたり、安心できる職場にあるという施策です。
引用元:【株式会社帝国データバンク情報統括部「企業における人材確保・人手不足の要因に関するアンケート 人手不足解消のカギ、「賃上げ」が 51.7%でトップ~ リスキリングによる成長や働きやすい環境の見える化などが課題に~」】(2023/5/17)
<https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p230506.pdf>
◆賃上げの必要性
世界的な物価高騰を受け実質賃金が低下するなか、賃金や賞与の引上げに取り組めない企業(あるいは取り組む姿勢を見せていない企業)では、従業員満足度や安心感が低下して優秀な人材が流出し、企業の競争力低下から新規採用もおぼつかなくなる、運よく採用できたとしても人を育てる余裕がなく早期離職、というような悪循環に陥ります。
会社を支える一番の力は、信頼できる人の力です。会社を信頼してくれる従業員が1人でも多く育つよう、会社は自らの進む先を示しつつ率先して変わるべきでしょう。
(2023年6月30日)
労働基準法では、労働契約の締結時や更新時に、労働者に対して、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないと規定しています。雇用環境の変化を受け、この労働条件の明示に関するルールが、2024年4月より変更になります。以下では、その内容を解説します。
●就業場所・業務の変更の範囲の明示
労働契約の締結や更新の際には、その従業員に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示することが義務付けられています。
今回、これらの明示が必要な労働条件のうち、「就業場所」と「業務」について、その内容の見直しが行われます。
従来、「就業場所」と「業務」については、契約直後の内容を明示すれば足りるとされていましたが、「就業場所・業務の変更の範囲」の明示も必要になります。
この変更の範囲については、将来の配置転換などによって変わり得る範囲を明示することが求められます。そのため、労働者に対して将来の転勤の有無やその範囲、また業務についても職種が限定されているか、されていないかなど、将来的にどのような業務に従事する可能性があるのかも含めて、明示することになります。
●更新上限・無期転換申込機会等の明示
有期契約労働者については、契約の更新上限の有無と無期転換の申込機会、そして無期転換後の労働条件の明示も必要になります。
① 契約更新上限の明示
有期労働契約を締結する際に、更新上限として、通算契約期間や更新回数の上限を設けている場合には、上限を設けている旨とその内容を明示することになります。なお、設けていない場合はその旨を明示します。
上限を設けていない場合であって新たに設ける場合や、例えば更新回数の上限を5回としていたものを3回に短縮するような場合には、その理由を労働者にあらかじめ説明することが求められます。
② 無期転換の申込機会等の明示
有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えた場合、労働者が会社に申し込むことにより無期労働契約に転換できるルールがあります。この無期転換の申込ができる労働者には、契約更新のタイミングごとにその旨を明示することになります。
さらに、無期転換後に有期労働契約時の労働条件が変わる場合には、その内容についても、契約更新のタイミングごとに明示が必要になります。
更新上限・無期転換については、有期契約労働者が対象ですが、就業場所・業務の変更の範囲の明示は、正社員を含む労働者全般に該当します。
雇用契約書・労働条件通知書の記載の見直しが必要となりますが、実務を行う上での詳細は今後、厚生労働省のホームページ等で新たな情報が出てくる予定です。その情報を踏まえて、対応を検討しましょう。
(2023年5月31日)
近年、過重労働や職場の人間関係によるストレスが原因で、メンタル疾患を発症する人が増え、社会問題の一つとなっています。
厚生労働省の調査によると、仕事で強いストレスを引き起こす事柄がある、と回答した労働者は53.3%と、2人に1人が仕事関連で強いストレスを感じている、という結果が出ています(令和3年労働安全衛生調査)。この調査からは、仕事に質や量を求められたり、失敗や責任などのプレッシャーがかかったりすることにストレスを感じる人が多いことが判明しています。
従業員の健康を保つことで生産性向上などを目指し、企業が率先して従業員の健康管理に取り組む考え方を「健康経営」と呼びます。人手不足が課題にあげられることも多い中小企業では、従業員の不調の原因が職場にあるにもかかわらず放置した場合、生産性が落ちるというデメリットを招いてしまうかもしれません。
反対に、健康経営に取り組めば、従業員の生産性向上、医療コストの削減、企業のイメージアップなどのメリットにつながると考えられます。職場のメンタルヘルス対策は、健康経営の面からみても非常に有効な取り組みです。
実際に、職場のメンタルヘルス強化を進めるうえで、何から始めればよいのでしょうか。
厚生労働省の指針では、職場のメンタルヘルスケアを強化するには、次の4種類のケアを継続して実施することが大切とされています。
①従業員本人によるセルフケア
②管理監督者が率いるラインによるケア
③企業内の産業保健スタッフなどによるケア
④企業外の専門家や機関などによるケア
これら4種類のケアが適切に実施されるよう、各担当者が連携をとりながら取り組みを推進することが大切です。
(詳細は「メンタルヘルス対策(心の健康確保対策)に関する施策の概要」参照)
4種類のケアを実施するうえで、まず必要なのが個人個人のストレス状態の把握と職場環境についての把握・改善で、そこで役立つのが「ストレスチェック」です。
現時点では、労働者が50名未満の事業所では、ストレスチェックの実施は努力義務となっていますが、ストレスチェック制度を活用し、職場環境等を評価して問題点を把握するとともに、その改善を図る事でメンタルヘルスの悪化を防ぐ一次予防となります。
また、二次予防として、メンタルヘルス不調を早期に発見し治療につなげるための対策も重要です。
二次予防のためには、従業員が相談できる体制として、産業医や産業保健スタッフに相談できるよう、相談窓口を明確にしておくような組織作りも必要です。
労働者のメンタルヘルス不調は、仕事の質・生産性、ひいては業績にまで影響を与えるため、早めの対策が必須です。定期健康診断の実施だけでなく、メンタルヘルスの対策を行い、健全な組織運営・生産性の高い組織を目指しましょう。
(2023年4月30日)
社会保険料は、毎月の報酬(標準報酬月額)と賞与(標準賞与額)に保険料率をかけて計算されますが、特別手当や年末年始手当といったイレギュラーな手当については、毎月の報酬・賞与のどちらに含めるか判断に迷うことがあります。
最近の年金事務所の調査においては、賞与に関する指摘が多く、賞与支払届の提出等の是正が必要となるケースが増えています。
厚生労働省による通達から、毎月の報酬・賞与区分の違いについて考えていきます。
(1)毎月の報酬
社会保険において、標準報酬月額の対象となる報酬は、次のいずれかを満たすものです。
(ア)労働者が自己の労働の対償として受けるものであること。
(イ)事業所から経常的かつ実質的に受けるもので、労働者の通常の生計にあてられるもの。
例えば、基本給のほか、能率給、役付手当、宿直手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、時間外手当といったものが該当します。
(2)賞与
社会保険において、標準賞与額の対象となる賞与は、賃金、給料、俸給、賞与等の名称を問わず、労働者が労働の対償として受けるもののうち年3回以下の回数で支給されるものです。
年4回以上支給される賞与については、標準報酬月額の対象となる報酬とされ、標準賞与額の対象となる賞与とはされません。
つまり、上記(1)と(2)をまとめると、下記のような違いとなります。
「労働の対償として受けるもの」、あるいは「労働者の通常の生計に充てられるもの」として支払われるもので、
●年に支払われる回数が4回以上のもの・・・毎月の報酬
●年に支払われる回数が3回以下のもの・・・賞与
となります。
従って、冒頭の給与規程等に支給時期が定まっていない特別手当や年に1回支給される年末年始手当は「賞与」に該当し、賞与支払届の提出が必要となる可能性が高くなります。
永年勤続表彰については、平成18年に社会保険審査会が賞与に該当しないという裁決を示していますが、「当該表彰金は、一定の勤続年数に達した者に対して労務の内容に関係なく一律に支給されており、永年勤続特別休暇の付与に伴う資金援助の性質をもつ」といった個別事情から、賞与に該当しない判断されており、ケースよっては賞与に該当する可能性も考えられます。
大入袋といった臨時的かつ恩恵的なものは、毎月の報酬・賞与のいずれにも含まなくてよい事とされていますが、これは、かなり狭義に解するものとされています。
「労働の対償として受けるもの」、あるいは「労働者の通常の生計に充てられるもの」については、毎月の報酬・賞与のいずれかに該当しますので、イレギュラーな手当等を支給する際は、適切な対応が必要になる事をご留意ください。
(2023年3月31日)
①老齢年金の繰下げ制度の一部改正
2020年年金改正法による国民年金法・厚生年金保険法の改正で、2022年4月から老齢年金〔老齢基礎年金・老齢厚生年金〕の繰下げ受給の上限年齢が70歳から75歳に引き上げられ、年金の受給開始時期を75歳まで自由に選択できるようになりました。
これを踏まえて、2023年4月から、次のような制度も施行されます。
70歳以降も安心して繰下げ待機を選択することができるようにするため、70歳到達後に繰下げ申出をせずにさかのぼって年金を受け取ることを選択した場合でも、請求の5年前の日に繰下げ申出したものとみなし、増額された年金の5年間分を一括して受け取ることができるようになります。
例)71歳まで繰下げ待機し、71歳時点で、繰下げ申出をせず、年金(本来の年金額180万円)を請求する場合、次のような形で受給できるようになります。
〔参考〕上記のケースで、71歳時点で、繰下げ申出する場合
(日本年金機構/資料)
②在職老齢年金の計算に用いる「支給停止調整額」の改定
在職老齢年金の計算に用いる「支給停止調整額」は、名目賃金の変動に応じて改定が行われます。
厚生年金保険における在職老齢年金制度について、支給停止が開始される賃金と年金の合計額の基準となる額(支給停止調整額)が、「47万円」から「48万円」に改定されます。
~2023年3月
①賃金(賞与込み月収)+ ②老齢厚生年金の月額が、 ・「47万円」以下 ➔ 年金の支給停止なし ・「47万円」超えるとき ➔ 年金を支給停止(超える額の2分の1を支給停止) |
2023年4月~
①賃金(賞与込み月収)+ ②老齢厚生年金の月額が、 ・「48万円」以下 ➔ 年金の支給停止なし ・「48万円」超えるとき ➔ 年金を支給停止(超える額の2分の1を支給停止) |
〈補足〉
①上記の支給停止の仕組みは、令和4年4月施行の改正で、60歳台前半の在職老齢年金と
60歳台後半・70歳以上の在職老齢年金に共通のものとなっています。
②年金は、年6回に分けて支払われ、支払月は、2月、4月、6月、8月、10月、12月になっています。それぞれの支払月には、その前月までの2か月分の年金が支払われます。
当改定は、4月分の年金から適用となりますが、実際に支払われるのは6月となります。
(2023年2月28日)
年度末に向け、36協定の締結に係る準備を始める企業も多いかと思います。そこで今回は、36協定にまつわるよくある質問を紹介します。
労働基準法では労働時間の原則を1日8時間、1週40時間としており、この法定労働時間を超える労働(残業)を禁止しています。
現実には多くの企業で、法定労働時間を超える時間外労働を命じているかと思いますが、労働者に時間外労働を命じるためには、あらかじめ36協定(時間外・休日労働に関する協定届)を締結し、所轄労働基準監督署に届出を行う必要があります。
1.提出期限
36協定の届出をする際は、「起算日」を記載することで対象期間を定めます。
たとえば、2023年度の4月から時間願労働や休日労働をさせたい場合、起算日を4月1日とし、この日から残業時間のカウントを始めます。
36協定の提出期限は、記載した起算日の前日です。仮に提出が遅れた場合は、提出日から有効とされ、起算日から提出日前日までは無効(残業させられない)となります。過半数代表者との締結も必要ですので、早めの準備が必要です。
2.記載する人数
36協定に記載する労働者の人数は、在籍している労働者の人数ではなく、時間外労働・休日労働を行わせることが想定される人数を記入します。
締結後、協定の有効期間中に、入社や退職により記入した人数と実態が乖離したとしても再度締結して届け出る必要はなく、締結後に入社した労働者にも協定の範囲内で時間外労働や休日労働を命じることができます。
3.過半数代表
36協定を締結する際は、➀労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)がある場合はその労働組合、②過半数組合がない場合は労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)と、書面による協定をしなければなりません。
②の過半数代表者は以下の要件を満たす事が必要です。
・労働者の過半数を代表していること
⇒正社員だけでなく、パートやアルバイトなど事業場のすべての労働者の過半数を代表していることが必要です。
・36協定を締結するための過半数代表者を選出することを明らかにした上で、投票、挙手などにより選出すること
⇒使用者が過半数代表者を指名した場合、36協定は無効になります。
・労働基準法第41条第2号に規定する管理監督者でないこと
尚、労働者の過半数代表者等が協定の有効期間中に退職するケースがありますが、退職したとしても締結をした36協定はその有効期間中において有効であり、36協定を再度締結したり、届け出たりする必要はありません。
36協定を作成する際に、流れ作業となってしまい、深く内容を見直さず前年と同じ内容で、日付と人数だけ確認して作成しているケースもよく見受けられます。会社は協定した内容を違守する必要があり、協定内容を超えて時間外労働を命じることは、労働基準法違反となります。そのため、協定する内容や数字にどのような意味があるのかをしっかりと理解し、確認した上で作成を行い、締結することがとても重要です。
(2023年2月2日)
給与のデジタル払いとは、企業が銀行の口座を介さず、スマートフォンの決済アプリや電子マネーを利用して振り込むことができる制度のことです。
近年、生活のさまざまな場面でキャッシュレス決済が普及し、現金をあまり利用しないという人も増えています。このような動きに合わせて、2023年4月1日から従業員への給与の支払いも〇〇ペイといった資金移動業者の口座に支払うことができるようになります。
会社が従業員に支払う給与は、「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と労働基準法で規定されています。その例外として、従業員から個別に同意を得て、従業員が指定する本人名義の預貯金口座や証券総合口座に振り込むことが認められています。
給与のデジタル払いが可能になることで、給与の支払い方(従業員にとっての給与の受け取り方)の選択肢が増えることになりますが、デジタル払いを行うかは、会社が資金移動業者へ支払う手数料がどの程度か、また、手続きの手間がどの程度になるかによって判断することが必要です。
以下は主なQ&Aです。(厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」より引用)
Q1. 賃金のデジタル払いは必ず実施しなければならないのでしょうか。引き続き、銀行口座等で受け取ることができなくなるのでしょうか。
A. 賃金のデジタル払いは、賃金の支払・受取の選択肢の1つです。
労働者が希望しない場合は賃金のデジタル払いを選択する必要はなく、これまでどおり銀行口座等で賃金を受け取ることができます。また、使用者は希望しない労働者に強制してはいけません。
賃金の一部を資金移動業者口座で受け取り、残りを銀行口座等で受け取ることも可能です。
Q2. 賃金のデジタル払いを開始するために、事業場で必要な手続は?
A. 事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合と、ない場合は労働者の過半数を代表する者と、賃金デジタル払いの対象となる労働者の範囲や取扱指定資金移動業者の範囲等を記載した労使協定を締結する必要があります。
その上で、賃金のデジタル払いを希望する個々の労働者は、留意事項等の説明受け、制度を理解した上で、同意書に賃金のデジタル払いで受け取る賃金額や、資金移動業者口座番号、代替口座情報等を記載して、使用者に提出することが必要になります。
Q3. 賃金のデジタル払いを選択するために留意すべき事項は?
A. 労働者は、資金移動業者口座は「預金」をするためではなく、支払や送金に用いるためであることを理解の上、支払等に使う見込みの額を受け取るようにしてください。
その他の留意事項は、同意書の裏面に記載されています。
使用者は、労働者に対して賃金のデジタル払いを賃金受取方法として提示する際は、銀行口座か証券総合口座を選択肢としてあわせて提示しなければいけません。また、労働者に対して、同意書の裏面に記載された留意事項を説明してください。
同意書の様式例は厚生労働省のHPで公開されています。
※厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」
(2022年12月28日)
労働基準法において、法定労働時間(1週40時間、1日8時間)を超える時間外労働(法定時間外労働)に対して、使用者は25%以上の率で計算した割増賃金(残業代)を支払わなければならないと定められています。
2010年の労働基準法の改正により、この割増賃金の率が引き上げられ、1か月60時間を超える法定時間外労働に対して、使用者は50%以上の率で計算した割増賃金の支払いが必要になりました。
法改正の当時、中小企業への適用は当面の間猶予されていましたが、2023年4月より、中小企業においても割増賃金率の引き上げが適用となります。
割増賃金率引き上げまでに必要な対応を確認します。
1.時間外労働の削減
今回の割増賃金率の引き上げは、あくまでも月60時間を超えた部分の割増賃金が対象ですが、時間単価が1,500円の場合、割増賃金率が25%から50%に変わることで1時間当たりの賃金額は1,875円(25%)から2,250円(50%)となります。
長時間労働をしている従業員が多い会社にとって、影響は決して小さいものではありません。
長時間労働の防止および人件費の増加という観点から、企業はできるだけ時間外労働を削減しておくことが必要になります。
2. 就業規則(賃金規程)の変更
割増賃金率は、絶対的必要記載事項の為、就業規則(賃金規程)に必ず規定する必要があります。該当箇所を修正、従業員への周知・意見徴収、労働基準監督署への届出が必要です。
3. 給与計算システムの設定について
使用している給与計算システムの割増率の設定の変更も必要です。
4. 36協定の取り扱い
時間外労働・休日労働に関する協定(いわゆる36協定)において、特別条項を設ける場合、限度時間を超えた労働に係る割増賃金率を記載する欄があります。
2023年4月1日以降に割増賃金率が変更となりますが、36協定には月60時間を超えた割増賃金率を記載する必要はないため、協定期間が2023年4月1日をまたぐ場合であっても、届出をし直す必要はありません。
5. 代替休暇の活用について
労使協定を締結することで、割増賃金率の引き上げ分(25%)の支払いに代えて代替休暇を与えることができます。代替休暇の対象となるのは月60時間超の時間外時間となりますので、時間外労働が多い場合は制度導入も検討が必要です。
時間外労働削減の前提として、会社は労働時間を適正に把握することが必要です。適正な労働時間を記録するように社内教育を行ったり、労働時間の記録とパソコンの使用記録など労働実態との乖離がないかを点検したりするなどの取組も行いましょう。
また、2020年4月1日より賃金請求権の消滅時効期間が延長され、2年から5年となりました(ただし当面の間3年)。残業代を正しく計算していないと、最大3年分の未払い残業代を請求されるリスクを抱えることとなります。
残業代の不払いは、労働基準法の規定により、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という刑事罰の対象となりますので、しっかりと各種対策やリスク予防策を講じることが大切です。
(2022年11月30日)
介護休業は、負傷や疾病、身体もしくは精神の障害などの理由から2週間以上「常時介護」が必要な家族(配偶者、父母、配偶者の父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫)を介護する場合に取得できる休暇です。
要介護状態にある家族1人につき3回まで、通算93日まで取得でき、休業期間中については経済的支援のため、介護休業給付金の支給を受けることができます。
しかし、介護休業は育児休業とは異なり、社会保険料の免除制度がないため、健康保険料や厚生年金保険料の支払いは発生し続けます。
Q.取得するできる日数が93日は短いのでは?
A.介護休業というのは介護のためにずっと休み続けるための制度ではありません。
介護休業制度は、介護を要する家族を抱えた労働者が雇用を継続していくためには、少なくとも介護に関する長期的な方針を決めるまでの間、当面家族による介護がやむを得ない期間について、緊急的対応措置として、休業ができるようにすることが必要であるという観点から創設されました。
つまり、家族が介護を必要とする状態になった場合に、ケアマネージャーに要介護認定をしてもらったり、在宅で介護するのか、それとも介護施設に入居するのかを始め、介護サービスを選定したりといった、いわば介護を始めるための準備期間というのが介護休業の目的です。
介護休業によって、本人がつきっきりでなくても、働きながら介護ができるような体制を整えることが重要です。
介護休業は育児休業と比較して、従業員への制度の内容浸透が十分でない可能性があります。 従業員が家族の介護の問題を1人で抱え込まないように、厚生労働省のホームページにある両立支援ガイドなどのツールを活用しながら、情報提供をしていきましょう。
(2022年11月4日)
2022年度の地域別最低賃金の改定額が公示され、2022年10月1日以降発効されています。
主な地域別最低賃金は下記の通りです。 ※()内は前年の金額。
全国で30円~33円の引上げが行われ、全国加重平均額は961円となりました。
都道府県名 |
最低賃金時間額【円】 |
発効年月日 |
|
埼 玉 |
987 |
(956) |
令和4年10月1日 |
千 葉 |
984 |
(953) |
令和4年10月1日 |
東 京 |
1072 |
(1041) |
令和4年10月1日 |
神奈川 |
1071 |
(1040) |
令和4年10月1日 |
大阪 |
1023 |
(992) |
令和4年10月1日 |
下記のグラフは直近10年間の全国加重平均額の推移です。
10年前と比べると200円近く引上げられています。また、新型コロナウイルスの影響を考慮した2020年を除くと、毎年約3%の引き上げが行われています。
毎年引き上げが行われている最低賃金ですが、どのようにして決まるのでしょうか?
最低賃金法によると、「最低賃金は、労働者の生計費、類似の労働者の賃金及び通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければならない。」と定められており、①労働者の生計費、②類似の労働者の賃金、③通常の事業の賃金支払能力の3つの要素・観点から総合勘案して決定されます。
①労働者の生計費
憲法第25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という生存権が保障されるよう、若年単身労働者の生計費や生活保護との整合性等を考慮しています。
②類似の労働者の賃金
厚生労働省で行っている「賃金構造基本統計調査」および「毎月勤労統計調査」等を参考に、その地方の労働者全体あるいは低賃金労働者の賃金水準等を基にしています。
③通常の事業の賃金支払能力
個々の企業の支払能力のことではなく、その業種等において正常な経営をしていく場合に通常の事業に期待することのできる賃金経費の負担能力を指しています。統計調査から業況判断及び経常利益の状況等の資料を参考にしています。
最低賃金は地域間格差等の課題もありますが、パートやアルバイト、外国人労働者等のすべての「労働者」に適用され、格差是正や貧困対策はもちろん、労働者全体の賃金の底上げにつながっています。
最低賃金の金額以下で労働者を働かせた場合には、使用者は罰則の対象となります。
(法定利息を加算した未払い賃金の支払いに加えて50万円以下の罰金)
月給者については1時間あたりの賃金額を算出が必要ですので、最低賃金引き上げの際は、確認するようにしましょう。
(2022年9月30日)
年次有給休暇を付与する上で、実務上のポイントを確認します。
Q.年次有給休暇を付与するための要件は?
A. 雇入れの日から起算して6ヵ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して使用者は年次有給休暇を与えることが必要です。その後については、継続勤務1年ごとに前1年間の全労働日の8割以上出勤した労働者に対して使用者は年次有給休暇を与えることが必要です。
事業場の業種、規模に関わらず、また、パート、アルバイト等の呼称に関わらず、また、外国人技能実習生を含め、全ての事業場の労働者に適用されます。
Q.継続勤務とは?
A.継続勤務とは、労働契約の存続期間、つまり在籍期間です。その判断を要する場合には、勤務の実態に即して行うべきとされており、たとえば定年退職と嘱託再雇用とが日を置かずになされる場合には、労働関係が継続していることとなり、在籍期間に通算されることとになります。また、6ヵ月に満たない短期の契約であっても、契約を更新して6ヵ月をこえて継続勤務するときは、6ヵ月をこえて継続勤務した1年ごとに新しく年次有給休暇が付与されることになります。
Q.全労働日とは?
A.全労働日とは、労働義務が課せられている日のことで、就業規則等で定めた休日を除いた日数です。
ただし、下記については全労働日から除外されます。
①使用者の責に帰すべき事由によって休業した日
②正当なストライキその他の正当な争議行為により労務が全くなされなかった日
Q.8割以上出勤とは?
A.出勤日数(算定期間の全労働日のうち出勤した日数)を上記の全労働日で除して計算します。
出動日数には、休日出勤した日は除く一方で、遅刻や早退があったとしても、その日は出勤しているため、出勤日数に含めます。
尚、下記については、出勤したものとして取り扱い、出勤日数および全労働日数に含めて出勤率の計算をします。
①業務上の負傷・疾病等により療養のため休業した日
②労働基準法に規定する産前産後休業を取得した日
③育児・介護休業法に基づき育児休業または介護休業した日
④年次有給休暇を取得した日
例えば、算定期間においてすべて育児休業を取得していた場合、休業日数を全労働日に含み、出動したものとして取り扱う日数にも休業日数を含むことから出勤率は10割となり、実際に勤務した日数がないとしても年休の付与を行います。
Q.特別休暇等の取り扱いは?
会社独自の休暇である特別休暇や、育児・介護休業法による子の看護休暇・介護休暇を取得した日等については、法令での定めはないため、それぞれの会社で出勤率の計算の際にどのように取り扱うかを決めることになります。決定した内容は、就業規則等に規定する事をお勧めします。
尚、休職期間は、労働者の労働義務を免除している期間であるため、出勤率の算定においては出勤日数及び全労働日から除外するのが一般的です。
出勤率を計算した結果、8割要件を満たさなかった場合、その年については年休が付与されませんが、次の年に8割要件を満たした場合は、8割要件を満たさなかった年も勤続継続年数に含めて、付与日数が決まります。従業員にとって年休の付与や取得に対する関心は高いことから、誤りのないように管理しましょう。
(2022年8月30日)
育児介護休業法が改正され、2022年4月1日から段階的に適用されています。
今回の改正のなかでも大きなトピックのひとつが「産後パパ育休」です。
制度の内容について詳しく見ていきます。
Q. 産後パパ育休の制度概要は?
A. 子どもが生まれてから8週間のあいだで、そのうち4週間まで休業することができる制度です。
いわゆる育児休業とは別の制度であり、主に男性が取得する休業であることから、産後パパ育休と呼ばれています。正式には出生時育児休業といいます。
Q. 産後パパ育休の申出期間は?
A. 原則として産後パパ育休を取得する2週間前までに、社員は申し出ることを要件とすることができます。
産後パパ育休の取得に伴い、業務の引継ぎ等が必要な場合には、2週間前の申出では引継ぎ期間が不足することも予想されます。労使期間の締結を検討するとともに、そもそも急な取得の申出にならないように、従業員の育児休業等に係る意向を事前に確認しておくことなどが重要です。
Q. 産後パパ育休の対象期間と取得日数は?
A. 子どもが生まれてから8週間以内が対象です。
この8週間のなかで、4週間まで休業することができます。この休業は、2回に分割して取得することができます。
例えば、8週間のうち「第1週と第2週」を1回目の取得、「第7週と第8週」を2回目の取得とするような場合です。
ただし、産後パパ育休を分割して取得する場合、最初にまとめて申し出る必要があります。
Q. 産後パパ育休取得期間中の扱いは?
A. 取得期間中の社会保険料は免除になります。尚、2022年10月から要件が変わります。
尚、労使協定を締結していることが前提ですが。労働者が合意した範囲内で産後パパ育休中に働くことができるようになります。
ただし、就業可能日数については上限があるのでご注意ください。
【産後パパ育休中の就業可能日数】
男性の育児休業の取得が促進されるにつれ、夫婦で育児することも増え、育児から手が離れ、副業を考える従業員が出てくるかもしれません。育児休業中に他の会社で勤務することを認めるのか、育児休業取得前に説明しておくことが必要になるでしょう。